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マンスリーテスト対策を行わない理由

難関校を目指す場合、まずは塾の復習テスト(マンスリーテスト、組分けテストなど※)での成績を出来る限り上げるという考え方が一般的です。例えば、サピックス生であれば「成績を上げてα上位クラスに在籍する」ということがわかりやすい目標となります。家庭教師や個別指導に対しても、大半の親御さんは復習テストの成績向上を望んでいます。指導者も親御さんの要望に応えるために、授業のフォローや復習テスト対策を重点的に行うというのが一般的です。

ただ、私は「復習テスト対策は行わない」「塾の成績向上を目指さない」という方針に基づき、難関校受験生の指導を行っています。ここではその方針に至った経緯について、お伝えしたいと思います。

実は、私も初期の頃は塾の復習テスト対策を重点的に行い、成績向上という「わかりやすい結果」を出すことに注力していました。特に難関校受験生の場合、短期間で驚異的に成績が上がることも少なからずありました。

しかし、いざ入試となると非常に厳しい結果が続いてしまいました。どの生徒も少しレベルを下げた併願校には合格できるのですが、本命の難関校については全滅に近い状態でした。

塾の復習テストは、幅広い層の塾生が母集団であり、理解状況を試験の得点に反映させなければならないという性質上、試験全体の難易度を適度に抑えた上で問題数を多くする必要があります。これは復習テストに限らず、実力テスト(サピックスオープン、合不合判定テストなど)でも同様です。

ただ、50分の制限時間で25~30問を出題するとなると、思考系の問題は最小限にして、知識系の問題を中心に出題する必要があります。思考系の問題は解くのに時間を要する(多くの受験者が短時間で解けるなら、そもそも思考系の問題ではない)ため、思考系の問題を多く出題すると、試験として成立しづらくなってしまうからです。

サピックスでは、知識・処理系の問題を「A問題」、思考系の問題を「B問題」と分類し、サピックスオープン模試では算数をA、Bに分けて成績を算出しています。ただ、サピックスオープンのB問題は「Aに近いB問題」も多く、難関校入試での本格的なB問題とは別物と考えた方がいいかと思います。

難関校の入試問題は「本格的なB問題」も多く出題されますが、塾の復習テスト(実力テストも含めて)に照準を合わせた学習を続けている限り、A問題の完成度は極限まで上がる一方、B問題については触れる機会が明らかに不足してしまいます。

初期の頃の私は、難関校受験生に対して比較的遅い時期まで塾の復習テストや実力テストの成績を向上・維持するための指導に多くの時間を費やして「A問題を極める」という、今から思えば非常に初歩的なミスを冒していました。

その後、情報収集をしていく中で、特に筑駒や開成などの最難関校に合格している受験生の多くは、そもそも塾の成績向上は眼中になく、早い時期から思考系の応用問題演習に多くの時間を費やしているということが分かってきました。

それ以来、難関校受験生に対しては塾の成績向上を目的とする指導は行わず、早い時期から思考系の応用問題演習を中心とする内容に切り替えたところ、最初の生徒が聖光学院、渋幕など受験校すべてに合格し、それ以降も開成や麻布の合格者が出るなど、難関校の入試結果は大きく改善しました。家庭教師として独立して以降は、開成合格率78%(18名中14名合格、2010~2021年度)など、初期の頃の厳しい結果からは想像できないほど状況は好転しています。

一方で、通常と違った指導法を進めることでの失敗も多く経験しました。

最も多いのは、塾の成績が下がることによる「指導の中止」です。そもそも、思考系の応用問題演習を行うための時間は、塾のフォローや復習テスト対策に費やしていた時間を削ることによって捻出しますが、そうすると高確率で塾の成績は下がってしまいます。応用問題演習を優先する以上、塾の成績がある程度、犠牲になることはやむを得ないのですが、親御さんによっては理解が得られないことがあります。

また、指導は継続するものの、思考系の応用問題演習を優先するという方針に従っていただけないこともあります。特に塾の復習テスト対策として、過去問(直近1、2年分のマンスリーテストなど)や予想問題を活用して好成績を維持していた受験生(親御さん)にその傾向があります。

マンスリーテストなど塾の復習テスト対策を行わないのは、そのための時間の何割かを思考系の応用問題演習に回すことで、難関校入試での合格率が上がるということを経験を通して感じてきたためです。ただ、それを最後まで実践するためには受験生や親御さんの理解を得る必要があり、そのための努力も重要だと感じています。

※組分けテストは実力テストという名目になっていますが、マンスリーテストを「範囲の狭い復習テスト」とすれば、組分けテストは「範囲の広い復習テスト」で、実質的には復習テストに分類できます。​

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